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リングの妖精3-2

不精をしてるとあっという間に日にちが経ってしまいますね。
リングの妖精、第3話の後篇です。こんな駄文を読んでくださる方々、どうもありがとうございます。




第3話「女の意地」後編


 前回の対戦から1週間が経ち、月嶋雫とブラッディ奥津の遺恨決着戦が行われようとしていた。しかも、ノーレフェリー、有刺鉄線電流爆破デスマッチ形式だ。
 会場は満員御礼、立ち見客も体を詰めながら何とか入っている状況だが、会場はざわざわとした雰囲気が漂っていた。
 ブラッディが入場してこないのだ。本来ならブラッディの入場の後に雫が入場するのだが、誰も立っていないリングに向かい、雫の方が先に入場してくる。
 今日のコスチュームはマーメイドドレス風のワンピースに、肩までの長手袋をつけている。今日はパールホワイトで統一している。しかし、1週間前の凶器攻撃で額に包帯を巻いているのが痛々しい。
 決意の色もあらわに、口元を引き締めて観客席から出た、その瞬間に突然観客席から飛び出した人影が雫の死角から襲いかかった。


「えっ!?」


 襲いかかったのは黒革のボンテージに身を包んだブラッディだった。今回は最初からバーサーカーモードだ。
 不意をつかれた雫はブラッディに引きずられ、場外の有刺鉄線の敷かれた場所へと真正面から突っ込んでいった。


「い、や、きゃぁーーーーーっ!!!!」


 ブラッディのカーフブランディングで押し倒された雫は体の正面から有刺鉄線マットに向かって倒れ込んだ。まともに倒れ込んだ雫の正面で、爆発が起こる。


 ズバーーン!!


 爆発音が会場に響き、雫とブラッディの体が白煙に包まれた。


「あーっははははははっ!!!!」


 白煙が晴れ、ブラッディが哄笑しながら姿を現す。そして、雫は………。


「あ………うぅ………」


 ブラッディにのしかかられ、避ける間もなく真正面から地雷原に突っ込まれた雫は手足を痙攣させながら力無く横たわっていた。弱々しく手足を動かして脱出しようとするが、コスチュームが有刺鉄線に引っかかってうまく動くことができない。


「おらおら、どうしたよ!!間抜けがひっかかってやがんのっ!!はははははっ!!」


 有刺鉄線にコスチュームを引っかけて動けない雫に容赦のないストンピングを浴びせるブラッディ。


「あ………、ぐぐぅっ………」


 身動きのとれない雫は蹴り付けられるごとに有刺鉄線が体に食い込み、苦痛に苦悶してはさらに有刺鉄線で傷つくと、延々と苦痛を味わわされた。


「い~い感じで色が付いたじゃない~?」


 ブラッディは有刺鉄線に引っかかる雫のコスチュームを意にも介さず雫を有刺鉄線から引きはがした。


「ひいぃ………ッ!!」


 無理矢理有刺鉄線から引きはがされた雫は苦痛に呻いた。ほんの少し前までは純白だったコスチュームは爆発であちこちがすすけ、フリルは引きちぎられて無惨な様を呈している。
 端整な顔は腕でガードしたため傷はないが、試合開始前から手痛いダメージを受けてしまい、ふらふらとブラッディに引きずられるままリングに上がる。


 カァン!!


 ここでようやく試合開始のゴングが鳴らされた。


「おらおらぁ~~~!!!!」


 ブラッディは雫をハンマースローで正面から有刺鉄線に振った。


「あああああーーーーーっ!!!!」


 成す術無く電流の流れる有刺鉄線に振られた雫は、真正面からロープに寄りかかる形となった。当然、爆発を真正面から受ける。


 バリバリバリーーン!!

「あ………………」


 ぐったりと、有刺鉄線に引っかかり、ダウンする雫に、サディスティックな笑みを浮かべてブラッディが近づく。


「あんたにはやっぱりこの色が似合うね………。あはははははは!!あたしがあんたを染め上げてやるよ!!真っ赤っかにねぇ!!!!」


 そう言うと、雫の後ろ髪を鷲掴みにしたブラッディは、まるで大根をおろすかのように雫の額を有刺鉄線にこすりつけた。


「ぎゃあああああああああああ!!!!」


 これにはたまらず悲鳴を上げる雫。すでに額を覆う包帯ははずれて無くなり、切り裂かれた額からはぼたぼたと血が溢れ出す。
 ばたばたと手足をばたつかせて逃げようとする雫の抵抗も虚しく絶叫に大きく開けた口を、爆破であちこちが破れたコスチュームを、鮮血が紅く染め上げていく。
 まるで蜘蛛の巣に捕まった蝶に蜘蛛が襲いかかっているような光景だった。抵抗することもできずに死に体となっていく雫と、雫の返り血を浴びてますます生き生きとしているブラッディ。
 ようやくブラッディが雫を有刺鉄線から引き離すと、雫は仰向けに大の字になったまま動かなくなった。


「レフェリー、フォールー」


 仰向けに転がした雫の胸を踏みつけ、フォールするブラッディ。屈辱の踏みつけフォールを、大流血の雫が力を振り絞ってブリッジで返した。


「いやあああああぁぁぁぁっ!!!!」


 絶叫しながらフォールを返した雫の髪をつかんで立ち上がらせたブラッディは、1発張り手を雫の左頬に張った。


 びしゃぁっ!!


 水を平手で張った音が響き、ロープを越えて血しぶきが観客席に飛び散る。悲鳴を上げる観客を笑いながら、ブラッディはチェーンを雫の首に巻き付けた。


「うぐぅっ!?」


 かろうじて手をチェーンと首の隙間に挟めた雫だが、ブラッディはそんなことにお構いなく雫の小柄な肢体を振り回した。豪快に首つり状態にされた雫は必死に意識をつなぎ止めようとする。


 ばぁんっ!


 10回転もして、ようやく解放された雫は手足を力無く投げ出してダウンした。レフェリーが手を持ち上げるが、放すとそのままぱたりと落ちてしまう。
 しかし、レフェリーは雫が半失神状態に陥っているにもかかわらずそのまま試合続行させた。これには会場中のファンがブーイングを上げるが、ブラッディもレフェリーもまるで意に介さない。


「ファイッ!!」


 ブラッディはダウンした雫の髪をつかんで起きあがらせた。そこで、ブラッディは油断した。これだけ痛めつけたなら雫は動けないと思いこんだのだ。


「このやろーーっ!!!!」


 だが、その予想を覆して雫は自分の髪をつかんだブラッディの手を引き離し、つま先蹴りをブラッディのみぞおちに突き刺した。


 ずむっ!

「ぐぶっ!?」


 予想もしない雫の反撃をまともに食らったブラッディは腹部を抱えて前のめりになった。そして、ブラッディの頭部を抱え込んだ雫が勢いをつけたトルネードDDTでブラッディをマットに突き刺す。


「ぐうぁーーっ!!」


 頭頂からマットにめり込んだブラッディは頭を抱えてマットを転がり回った。


「コノヤロー!!コノヤロー!!コノヤロォーー!!!!」


 雫はほとんど狂乱したかのようにマットに伏したブラッディを蹴りまくった。今度はブラッディがストンピングの嵐に見舞われる。
 雫のいつにないラフファイトに、観客は驚くが、よく見るとまともに意識があるようには見えない。意識朦朧とした状態で本能に突き動かされているのだ。


「月嶋、ストップ、ストップ!!」


 レフェリーが雫にしがみついてストンピングを止めさせようとする。こんな時にだけレフェリーの顔をして止めに入る阿部に観客からブーイングが飛ぶが、雫はそれにかまわず攻撃を続けようとする。


「この、死に損ないがーーっ!!」


 ここで、ブラッディがストンピングの嵐から抜け出そうとして足を振り回した。普段なら軽く避けられるような闇雲な攻撃だが、大流血しているうえ、阿部レフェリーに羽交い締めされている今の雫はかわすことができず、足をもつれさせ、しりもちをついた。


「こ、の………。離れなさいっ!!」


 しりもちをついた雫にのしかかる形で阿部レフェリーも倒れ込む。このわざとらしい仕草から、自分から倒れ込んだと見るべきだろう。


「なっ!!や、離れて………!!」


 しりもちをついた体勢から仰向けになる雫の胸に手をついた阿部レフェリーが、強く握ったのだ。コスチュームが阿部の手つきのままに歪む。血で汚れて見えないが、雫の顔は真っ赤に染まっていた。


「こ、この………!!」


 流血によってぼんやりした頭が阿部のセクハラによってさらに混乱していく。
 阿部は雫の胸を堪能しながらリングにこぼれ落ちた血で足を滑らせ立ち上がれない芝居を続けている。そんな彼に会場中からブーイングが飛ぶが、悪役レフェリーとして名を売る彼はそれに全く見向きしなかった。


「ひぁっ!?」


 混乱しながらも阿部をはねのけようとした雫を、異様な感触が襲った。雫の細くくびれた腰に手を当てた阿部が、そのままへそに指を突っ込んだのだ。


「あ、あああぁぁっ!?」


 未だかつて無い感覚に体の力が抜けてしまった雫は無防備なままマットに横たわる。そこにようやく体勢を立て直したブラッディのストンピングが襲ってきた。


「てぇめぇ、よくもやってくれたなぁーーっ!!」


 力の抜けた雫のボディにブラッディの足が次々に突き刺さる。されるがままに悶絶する雫。ちなみに阿部は、ブラッディがストンピングを始めたところで雫から離れていた。
 手、足、胴体、まるでお構いなくブラッディのストンピングが雫を襲うが、雫も最初はされるがままだったが、すぐに冷静さを取り戻し、ブラッディが見せるだろう隙を待った。


「はぁはぁ………。てめぇはもう許さないよ………」


 ようやく蹴り付けるのを止めたブラッディは、ダメージを受けすぎてダウンしている様に見える雫の髪をつかみ、引き起こした。
 試合開始直後に雫が1回、そして雫の反撃によって1回、後2回電流爆破のロープは残っている。そのうちの1本に雫を振ろうとしたブラッディだったが、雫の余力を見誤っていたブラッディは、反対にロープに振られてしまった。


「う、うあああぁーーっ!!」


 爆発が響き、真正面からロープに突っ込んだブラッディが白煙に包まれる。荒くなった息を白煙が張れる間に整えた雫は、ふらふらと立ちすくんでいるブラッディの腰に組み付き、そのままジャーマンスープレックスホールドに移行した。芸術的な弧を描き、ブラッディが頭部からマットにめり込んだ。雫はブリッジの体勢のままフォールを待つ。
 しかし。


「ワ~~~~ン、………………」


 ここにいたのは阿部レフェリーだった。あまりにものろいカウントに、1カウントとる毎に雫とブラッディの周囲をぐるぐると回るため、その間に雫のブリッジが崩れてしまった。


「ブーーーーーー!!!!」


 あまりにあからさまなレフェリーに会場からまたしてもブーイングが飛ぶ。


「なになまけてるのよっ!!ちゃんと数えなさいよっ!!」


 これにはさすがの雫もくってかかるが、この阿部もだてに悪役レフェリーとして名を売ってはいない。胸ぐらを掴んで詰め寄る雫に失格をちらつかせて脅しながらコーナーに押し込んでしまった。その間にブラッディはダメージを癒す。
 阿倍の茶々入れによって試合は中断し、ブラッディが立ち上がるまでに雫も顔にこびりついた血を水で洗い落とし、傷口をバンダナで塞いだ。両者、臨戦態勢を整えたところで阿部が試合再開の合図を出す。


「ファイッ!!」


 雫もブラッディも電流爆破と有刺鉄線のダメージが大きく、少し休んだとは言えかなりスタミナは削られている。
 慎重に、じわりじわりと間合いを詰める両者。


「この、ばぁ~かっ!!」


 先に動いたのはブラッディの方だった。休んでいる間に口の中に含んだ毒霧を雫に吹きだした。


「くぅっ!!」


 純粋なレスラーとしての力量なら雫の方がブラッディを上回っているのは、試合が開始される前に奇襲をかけて攻め立てられながらも雫がブラッディを追いつめたことからも明らかだ。そうである以上、奇計を仕掛けてくるだろうと、注意を怠らなかったのが幸いした。とっさに腕を顔の前に伸ばし、毒霧が目に入るのは防げた。しかし、それに続くブラッディのやくざキックまでは防げなかった。


 どぼっ!


 雫の細い胴部にめり込んだブラッディのやくざキックの勢いのままに雫は仰向けに転倒した。


「かはぁ………ッ」


 嘔吐感に苦しみながらうつぶせになり、ブラッディの追撃に備えた雫だが、予想していたストンピングは来ないで足を極められ、あごを掴まれサーフボードに囚われてしまった。


「ううううぅっ!!」


 弓のように体を反らされ、のどと傷ついた額を同時に攻められる苦痛に歯を食いしばって耐える雫。傷口を押さえていたバンダナに赤い染みができ、押さえきれなかった鮮血が雫の顔を垂れ落ちてくる。


「おらおらおらおらおらぁっ!!ギブアップしろってんだぁ!!!!」


 ここでブラッディは勝負に出た。両手で雫ののどを掴み、全力で雫の背をそらせたのだ。


「んぐーー!!んーーーー!!!!」


 のどを締め上げられたまま背を逆エビにそらされた雫はたまったものではなかった。息を詰まらせられたままきつい角度で攻め上げられ、あっという間に意識が白くなる。
 ぎりぎり、と音がするほどに逆エビを極められた雫が、最後の抵抗に両手で自分ののどを掴んでいるブラッディの腕をかきむしり始めた。


「雫、ギブ?」


 ここで阿部がまたしてもよけいなちょっかいを入れてきた。雫の唯一自由になる腕を掴んで身動きをとれないようにしたのだ。


「………、か………」


 窒息した雫の肢体が痙攣を始めた。ひくっひくっと動く感触を楽しみながらもブラッディはさらに雫を仰け反らさせる。


「………………」


 雫の粘りもここで終わりか、と会場中の人間が思った、そのとき、雫が阿倍の襟ぐりを掴み、自分の上にのしかからせた。


「な、何すんだい!!」


 阿部が雫の上にのしかかってきたため、ブラッディは体勢を崩し、雫を解放してしまった。のどを押さえ、激しく咳き込んでいる雫をよそ目に感情のままに阿部にくってかかる。


「ま、待って………。ほら、レフェリーに手を挙げると………」


 今にも殴りかかりそうな剣幕のブラッディに、さすがの阿部もたじたじになる。
 そこに。


「ブラッディー!!」


 叫び声に、つい振り返ったブラッディの眼前にリングシューズの底が飛び込んできた。


 がっ!


 ブラッディの横顔に雫のローリングソバットがクリーンヒットした。そのままばったりと倒れるブラッディをかばうように阿部が雫の邪魔をしようとする。


「つ、月嶋、さささ、下が………」

「邪魔よっ!!」

 パァン!!


 しかし、阿部の台詞は途中で雫の張り手に断ち切られた。頬を打たれた痛みにふらりとよろめく阿部のバックをとった雫は、そのまま阿部の腰をホールドする。


「でやあああぁぁ~~!!!!」


 雫のバックドロップが見事な弧を描いて阿部をマットにめり込ませた。受け身などとれるはずもなく阿部は泡を吹いて失神してしまう。
 阿部をKOし、振り向いた雫の眼前に、今度はブラッディが迫ってきた。


「な………!!」


 さっきの手応えからまだダウンしていると思いこんでいた雫はとっさに動けず、ブラッディのドロップキックをまともに喰らい、吹っ飛ばされた。
 最後に残った地雷原、そこに雫が吸い込まれるように落ち………。


 ばぁん!!


 最後の爆破が起こった。
 もうもうと起こった白煙がはれた後には雫がぴくりとも動かず横たわっている。


「おらぁーー!!」


 場外でダウンした雫に、ブラッディのヒップドロップが追撃で叩き込まれた。ちょうど雫のみぞおちに命中した衝撃で雫の体がくの字に曲がり、再びだらりと床に垂れる。


「さぁ、とどめはテメェの得意技でやってやるよ………」


 ブラッディは雫を立ち上がらせると親指を立ててのどをかっきる仕草を見せ、バックドロップの体勢に入った。そのまま雫が場外で投げ捨てられる………、と思ったそのとき、雫は振り向きざまにブラッディの頭部に肘を当て、ひるんだブラッディの背後に回り返してブラッディの腕をクロスして固定した。


「うああああぁぁぁぁ!!!!」


 最後の力を込めたクロスアームスープレックスホールド!!受け身をとれずに場外マットに後頭部からめり込んだブラッディはこの1撃でダウンした。
 そして、雫はブラッディと共にリングへ戻ると、コーナーポストに駆け上り、リング中央で横たわっているブラッディめがけ、ムーンサルトプレスをかけた。
 雫の渾身のムーンサルトプレスは見事にブラッディをとらえた。
 そのままフォールに入れば3カウントをとることができただろうが、レフェリーの阿部はまだ意識をもうろうとさせている。


「フォォール!!」


 しかし、これまでの試合で疲労しているはずの雫の力に満ちた声が観客を動かした。


『ワン!!ツー!!スリーー!!!!』


 観衆の声で文句なしの3カウントが入る。立ち上がった雫がよろよろと立ち上がり、観客に両腕を掲げてアピールした。


「は、反則負けだぁっ!!雫!!」


 そこに、ようやく復活した阿部レフェリーが割って入った。たしかに、レフェリーに攻撃を加えた以上、雫の反則負けは間違いない。
 しかし、このレフェリーのあまりに露骨な行動に観客はあきれかえり、完全に不利な状況をひっくり返し、誰が見ても間違いない勝利を収めた雫に惜しみない声援を送った。



 こうして、記録上は黒星だった雫だが、観衆、雑誌に至るまで試合に負けて勝負に勝ったと称され、また一つトップレスラーとしての階段を上がったと認められるのだった………。

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ブログを始めてみて・・・

ブログを始めてみると、毎日更新している人たちは本当にすごいと思いますね(^^;

いろいろと妄想はわき出すんですが、それをいざ書きだそうとすると筆がなかなか滑らない。プロレス、ファンタジー、SF、苛めたいヒロインはポコポコわき出すんだけどなぁ(^^;

こんな駄文ですが、読んでいただいている皆様、コメントよろしくお願いしますm(--)m

リングの妖精3-1

第3話「女の意地」前編



 広い会場の中、観客の視線が集まるリングの上で、二人の美女が睨み合っていた。ただし、両方群を抜いた美貌の持ち主とはいえ、その方向性は正反対である。
 青コーナー側に立っているのは、やたらと色っぽいボンテージのコスチュームをまとったブラッディ奥津というリングネームの女性だ。水商売に行けば引く手あまただろう、どこか退廃した妖しさがある。あだっぽいと称するのがぴったり来る彼女だが、試合はすべて大流血試合となり、特に自分の血を見ると、ただでさえもろい理性がぷっつりと切れてしまう、ヒール軍の中でも手のつけられない問題児である。
 対して赤コーナーでは正規軍のトップである月嶋雫が体をほぐしていた。20歳になってさらに女性らしさを増した肢体を純白のコスチュームで包んでいる。二の腕まで届くレースの手袋と、羽根を模したコスチュームが妖精と呼ばれる清純な容貌を彩っている。
 両者とも、凶器を保持していないことを確認し、レフェリーがゴングを要請した。


 カーーン!!


 ゴングが鳴り響き、ブラッディは雫に備えて構えをとり、雫は軽くステップを踏みながらじわじわと近づいていく。


「行くわよっ!!」


 軽いステップから大ジャンプ、そして打点の高いドロップキックがブラッディをねらう。


「う、うわっ!?」


 慌てて飛びすさろうとしたブラッディだったが、胸板にキックを食らう。


「まだだ!!てやぁーーっ!!」


 仰向けに倒れたブラッディを起こした雫はそのままブレーンバスターで投げ捨てる。


「うぐぅっ!!」


 背中を痛打し、うつぶせにダウンしたブラッディ。雫はブラッディの背に馬乗りになり、片エビ固めを極めた。


「っがああああぁぁぁぁぁっ!!!!」


 とたんに走る激痛に、ブラッディは獣のように悲鳴を上げた。うつぶせに押し潰された胸が歪む様がはっきりと見て取れ、妖艶さに観客の目が集中する。


「さぁ、ギブアップ!?」


 雫がギブアップを要求するが、ブラッディは顔を振って拒む。雫もこんな序盤で試合を決めるつもりはないが、スタミナを減らすため、さらに角度を深くしようと背をそらした、そのとき!!


 ごんっ!!


 雫の後頭部に衝撃が走った。


「うああっ!?」


 たまらずにブラッディを解放してマットに這いつくばる雫。その彼女を見下ろすのは乱入してきたヒール軍の樋野京子と吉倉貴子だ。


「く・・・、反則よ、レフェリー!!」


 1対3の状況に、レフェリーに反則を訴える雫だが、レフェリーはリング下で雫を助けに入ろうとしている正規軍の若手と揉み合っていた。


「レフェリー、反則だろう!!」

「反則はおまえたちの方だ!!下がらないとカウントをとるぞ!!」


 レフェリーの職務を果たしているのではなく、ヒール軍と結託しているのは明白だった。雫は3人を相手に孤軍奮闘しなければならなくなってしまった。


「さぁ、立てよ!!」


 性格の荒い樋野が雫の髪を鷲掴みにして立ち上がらせると、みぞおちに膝をめり込ませた。


「ほぅ・・・っ」


 息を詰まらせて体を前に折り曲げた雫に、ねちっこい関節技を得意とする吉倉がギロチンチョークを極める。頸動脈に食い込む締め付けではなかったが、吉倉が雫を振り回すたびに高く突き出されたお尻と前屈みになった胸がふるふると揺れる。


「おお~~・・・・・・」


 プロレス界きっての美人レスラーである雫の色っぽいやられ方に、会場中の人間の目が集中した。会場のモニターが雫を大きく映し出し、揺れる胸と、お尻をズームする。


「く・・・くそぉ~~・・・・・・」


 恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にした雫は、ギロチンチョークをかけられた体勢のままスープレックスで切り返そうとするが、いきなり突き出されたお尻に平手打ちの衝撃が走る。


「ひゃん!!」


 子供の頃以来の痛みに、かわいらしい悲鳴を上げて足をもつれさせた雫を、平手打ちをかましたブラッディ、樋野と、ギロチンチョークを極めたままの吉倉がロープ際まで連行した。


「放せ、このーっ!!」


 じたばたともがく雫をロープに振り、3人そろってのドロップキックが雫の体を貫いた。3人そろっての攻撃に、たまらず仰向けにダウンする雫。すかさずブラッディは雫の足を4の字に極め、吉倉が雫の両腕を関節技で極めた。


「あああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」


 両手両足を極められた雫があまりの苦痛に絶叫した。ロープに逃げることもできず、関節技の苦痛に耐えることしかできない。正規軍の面々は、雫がリンチに遭う様をレフェリーに邪魔され、見ているほかできなかった。


「うああぁぁぁ・・・!!」


 手足に走る激痛に歯を食いしばって耐える雫。しかし、文字通り手も足も出せない状況の彼女に、樋野の追い打ちがかかった。長身の樋野の体重をかけたフットスタンプが雫の薄い腹筋を貫いて内臓を押し潰す。


「くほぉ・・・」


 雫は口のはしから唾液を垂らし、痛みと苦しみに咳き込んだ。強く閉じられた目尻からは薄く涙がにじんでいる。


「まだまだ!!もっと悲鳴を上げなぁ!!」


 しかし、雫への攻めは終わらなかった。樋野は何度も雫の胴の上でジャンプを繰り返し、ブラッディと吉倉は関節技を掛け続ける。


「か・・・あぁ・・・・・・」


 ようやく解放された雫は、マットに横たわり、手足をだらりと伸ばしたまま立ち上がることができなかった。そんな雫を、ブラッディたちは高笑いしながらストンピングで痛めつけた。そして、何発かが雫の額に当たり、皮膚が裂けて鮮血が流れ始めた。


「くあぁっ!?」


 額を抑え、リング下に逃れることに成功した雫は手ひどく痛めつけられた体を抱え、一息つくことができた。その周りに正規軍の若手が集まり、ヒール軍が手出しできないようバリケードを作る。


「はあ、はあ・・・・・・」


 雫は20カウント直前まで体を休め、リングに復帰した。そして、リングロープをくぐった雫を捕まえ、樋野と吉倉がダブルラリアットをねらったが、雫は前転してこれをかわし、反撃のダブルネックブリーカーで切り返した。


「なっ!!」「ぐあっ!!」


 二人そろって仰向けにダウンした樋野と吉倉を正規軍の面々がリングから引きずりおろし、ようやく1対1に持ち込んだ。


「しぶといわねぇ・・・」


 舌打ちしながら顔を歪めるブラッディ。本来なら3人で一気に押し切るつもりだったのだが、雫の予想以上の粘りにその予定は崩されてしまった。


(まぁ、結構痛めつけたし大丈夫よね・・・。もうちょっといたぶっとけばよかったけど・・・)


 1対1の勝負なら雫の方に分がある。とはいえ、3対1で負ったダメージはかなり大きい。ここをうまくつけば雫に勝てるかもしれない、と楽観的に見たブラッディだったが、甘かった。


「さっさとくたばりあそばせ!!」

 ぱぁん!!


 先手をとったのはブラッディだった。張り手が雫の頬に当たり、乾いた音が会場に響く。しかし、雫はそれにひるまず、張り手を連続して叩き込んだ。


 ぱぱぱぱぱんっ!!

「この、卑怯者っ!!一人じゃあ自信が無いから人数に持ち込む!?少しは恥を知りなさいっ!!」


 雫の猛攻の前にガードを固めて後退するブラッディ。そして、雫はガードを固めたブラッディの胴にドロップキックを命中させた。


「ごぼっ!!」


 上半身にガードを集中させていたブラッディは、予想外のボディ攻撃に後ろに吹っ飛ぶ。そして、ロープにはね返されて帰ってきたブラッディを捕まえ、ノーザンライトスープレックスを放った。
 そして、そのままフォールにはいるが、レフェリーのゆっくりとしたカウントに、フォールははね返されてしまう。


「何やっているの!!」


 あまりに露骨なレフェリーに、温厚な雫も怒って詰め寄った。しかし、ブラッディのことを失念していた雫の首に、ブラッディの腕が回ろうとする。
 チョークスリーパーを極めようとするブラッディと、それを阻止しようとする雫がもみ合いになり、その弾みで雫の肘がブラッディの鼻にぶつかってしまった。


「あっ?」「ぐぃっ!?」


 鼻を押さえてブラッディがうつむき、雫はその隙に後ろに下がった。出会い頭の打撃だったため、雫もその隙をついて攻勢に出るのに一瞬遅れた。
 そして、その一瞬の遅れがリングを血の海とすることとなった。


「・・・・・・血だ・・・」


 ぽつりとブラッディが呟いた。雫の肘が当たった鼻から血が流れた。


「・・・・・・?」


 不穏な雰囲気を感じた雫がガードを上げた瞬間、顔をガードした腕にすさまじい衝撃が走った。


「くぅっ!?」


 普段はどこか相手をからかうような雰囲気のブラッディだが、自分の血を見ると、とたんに暴走を始めるのだ。相手のガードなど全く考えず、ただパンチを叩き付ける。


「く・・・う・・・・・・」


 必死にガードを固めて耐えしのごうとした雫だが、ガードの隙間をくぐって額の傷口に1発パンチが入った。


「あぐ・・・!!」


 思わずひるむ雫にさらにパンチが額をえぐった。そして、苦鳴が会場に響く。悲鳴を上げながら後ろによろめく雫。


「らあ、うらぁ、おりゃあああーー!!!!」


 雫を殴り殺す勢いでめった打ちにするブラッディに、雫も掌底で抵抗したが、それはそよ風の抵抗でしかなかった。


「あ、あう、く、ご、ぐ・・・」


 コーナーに追いつめられた雫の足から力が抜け、その場でダウンしそうになったが、ブラッディはそれも許さなかった。
 コーナーを背に腰から砕けそうになった雫をリバースフルネルソンでとらえると、そのまま180度回転し、広角度からスパインバスターで雫を顔面からマットに叩き付けた。
 べちゃ、と音がして白いマットに鮮血の女拓ができあがる。


「ぐ・・・うぅ・・・あ・・・・・・」


 顔を押さえ、リングに横たわる雫を、ブラッディのストンピングの嵐が襲う。


「くっ、あっ、あぁーっ!!こ、この!!なめるなーっ!!」


 ブラッディの猛攻に耐えるだけと思われた雫だったが、勝負を諦めたわけではなかった。狂乱したブラッディの足を掴み、グラウンドに持ち込む。アキレス腱固めが極まった。


「ぎゃああああああーーーーっ!!!!」


 一瞬の自失と、その直後に足首に激痛が走る。ブラッディは会場中に響き渡る絶叫を響かせた。


「くうぅ、ギブ・・・、しろぉ~!!」


 大流血となった雫も限界は近い。渾身の力でアキレス腱を締め上げるが、全身に飛び散った地がぬるぬると滑り、思うように足を締め上げられない。


「二人とも、離れて離れて!!」


 レフェリーが二人を引き離そうとした、そのとき。狂乱がまだ続くブラッディがレフェリーを殴りつけた!!


「ごぉっ!!」


 激しく殴られたレフェリーはもんどり打ってひっくり返る。ここで雫のアキレス腱固めもはずれ、両者は激しく取っ組み合った。
 正規軍、ヒール軍が二人を引き離そうとリングに上がり、もはや収拾のつかなくなった有様に、ついにレフェリーが没収試合の決断をする。


「ふざけるな!!こいつは殺す!!ぶっ殺してやる!!」

「できるならやってみなさいよ!!この程度で私が負けるわけないでしょ!!」


 闘志をむき出しに取っ組み合う両者。結局正規軍とヒール軍がそれぞれを羽交い締めにして控え室まで連れ去り、ブラッディはそのまま控え室で荒れ狂い、雫は貧血のため、病院で手当を受けた。



 こうして雫とブラッディの試合は没収試合となってしまった。


「こんな決着で納得できるわけないでしょ!!次の対戦で徹底的に決着をつけるわよ!!」


「望むところよ!!どんな対戦形式だろうと受けて立つわ!!」


 こうして、この試合で生まれた因縁から、雫とブラッディは再び激しい闘いを繰り広げることとなるのであった。

リングの妖精2

第2話「奇跡の勝利」


「この試合だけは負けられない・・・・!!だから、どんなことになっても試合終了だけはさせないでね・・・」


 控え室で決意をあらわにして正規軍の面々に向かって話しているのは、女子プロレス界きっての美女レスラーとして名高い月嶋雫である。
 肩の少し下で切った艶やかな髪に、妖精とあだ名されるにふさわしい可憐な容貌、そしてグラビアアイドルなど軽く蹴散らす自己主張の強い胸とスレンダーな体。
 日々の練習で余分な脂肪の無い肢体を、胸を強調したライトグリーンのハイレグワンピースと、同色のリングシューズで装っている。コスチュームには、ウエストの周りに半透明のフリルがつけられており、腕には、二の腕の半ばまである薄手の手袋をつけている。
 ブラスターとはこれまでにも幾度もハードコアで対戦してきたが、有刺鉄線は雫にとって初体験であり、これまで何度も他団体のトップヒールと抗争を繰り返してきた、いわばハードコア戦のスペシャリストであるブラスターには、明らかに分が悪いと言わざるを得ない。


「先輩、時間です。準備を願いします」


 時間がたち、正規軍の若手が控え室のドアを開ける。
 頭にかぶっていたタオルを肩にかけ、いつものリングコスチュームの上から着るドレスを着ずに、凛とした表情で歩き出す。
 取りの一番、月嶋雫とブラスター狂子の完全決着戦、しかも、有刺鉄線ノーレフリー時間無制限一本勝負ということで、会場中が満席になり、立ち見の客すらいる。
 そんな中、美女と破壊獣は有刺鉄線のロープに囲まれて向かい合った。


「今なら土下座すれば見逃してやらないことは無いよ」


 ブラスターが慈悲深い、と彼女自身では思っている口調で降伏を迫るが、凛とした表情で雫がそれを突っぱねた。ブラスターも、雫が降伏すると思ったわけではないが、雫の表情には不快感を覚える。


(気に食わないね・・・・!!あの澄ましきった顔を消してやるよ、あたしらに逆らえないようにね・・・!!)


 レフリーがいないので、試合開始はリング下で行われる。
 そして、ゴングが鳴った。
 空中戦を得意とする雫は、有刺鉄線のリングでは不利である。
 そのため、ブラスターの得意とするどんなパワー殺法にも対応できるよう、慎重にスタンダードなファイティングポーズでブラスターに近づいた。
 しかし、ブラスターの攻撃は雫の思惑を完全に打ち砕いた。
 ボクシングのポーズをとったブラスターは、スピードと反射神経では団体随一を誇る雫でさえ虚を付かれたほどのスピードでステップインし、ジャブでガードを打ち崩していく。


「くうっ、ぐあぁ・・・っ」


 ブラスターの怪力からすれば、ただのジャブでも雫の渾身のストレート並の破壊力になる。かろうじてガードに成功した雫だが、ガード越しに伝わる衝撃にうめきながら、距離をとろうとして距離をとろうとしたが、ブラスターの勝負勘は雫の予想を越えていた。
 これまでの試合から、ブラスターは力の差を誇示するかのように、力任せに押してくるだろうと思っていた雫は、完全に虚を付かれた形となった。


「甘いよ、くらいな!!」


 距離をとった雫の懐にもぐりこみ、ボディブローを放つ。


「あぐ・・・・・」


 打たれたボディに、痛みというよりも、熱さを感じながら雫の体がくの字に曲がり、あごが下がったところに見えにくい側からフックを顎に。首を刈り取るかのように振りぬいた。


「あ・・・・?」


 まともにもらい、二、三歩よろめくと腰から落ちるようにダウンする。
 2、3秒しりもちをついたままで虚ろな眼差しを斜め上方に向けていた雫だが、思い出したように首を後ろに倒してリングに横たわった。
 ボクシングなら、ここでレフリーのカウントが入っただろう。あるいはTKOだったかもしれない。しかし、これはプロレスの、それも特上の無法地帯だった。


「オラ、この程度で終わると思ってるんじゃないよ、さっさと立ちな」


 ブラスターが、リング上で糸の切れた人形のように横たわっている雫をどやしつける。彼女からすれば、奇襲が成功したことは当たり前、あとはどういたぶっていくかが問題なのだから、今の状態は、少々期待はずれなものとなる。
 いつものように、不屈の闘志を燃やし、巨大な壁に立ち向かっていく雫の姿を期待している観客も、秒殺となりかねない雫のダメージに、ざわめきをもらし始めた。
 そのまま、十秒以上が経過しても、動く気配すら見せない雫に、業を煮やしたブラスターが近づく。


「いいかげんに起きろや、このアマぁ~~っ!!!」


 大喝を浴びせるなり、雫の無防備なお腹に、猛烈なストンピングを打ち込んでいく。ストンピングというよりは、踏み潰すといった形容詞がぴったり来る攻撃に、半失神状態の雫の意識は一気に呼び覚まされた。


「あぐ、うぶうっ!!がほっ!!!」


 意識を戻した雫を待っていたのは、ブラスターによるボディ攻撃の地獄であった。あまりの衝撃に、喉の奥から吐き気がこみ上げてくるが、なすすべもなく、ただボディの蹂躙に耐えようとする雫。


「おや、目を覚ました・・・ってここで吐くんじゃないよこの馬鹿!!」


 雫が意識を取り戻したことに気づいたブラスターだが、雫の顔が吐き気に歪むのを見て、少々やりすぎたと思ったのだろう、雫の髪を鷲掴みにして、リング外に落とした。


「うえぇ—っ!!おえぇ――っ!!」


 リングから落とされた雫は、駆け寄ってきたセコンドの持つバケツに嘔吐し始めた。吐くものがなくなってなお、お腹を抱えてえずいている。
 そんな雫の姿は、あまりに無残であり、観衆の中には思わず目をそむける者もいた。
 しかし、そんなことに頓着しない者もいる。


「おらおら、やっと目を覚ましたんだ、もうちょっと付き合ってもらうよ。・・・これから何をするかわかるかい?!」


 場外でうずくまったままの雫を無理矢理に起こすと、頭に布をかぶせ、何も見えないようにして鉄柱の近くに連れて行って恐怖心を煽っていくブラスター。


「きゃ、やめろ、やめて!」


 次の攻撃が予想できたため、抵抗する雫。


「やめろだって・・・誰に口を聞いてるんだよ・・・お仕置きが必要ねっ・・・おらっ!」


 ガン!!


 大きな金属音が響き渡る。思いっきり雫の額を鉄柱に叩き付ける狂子。
 そして、狂子が雫の顔を覗き込むが、黒地の布に隠されて中の様子は窺い知れない。しかし、布の中からは雫のうめき声が漏れ出し、さっきの攻撃が十分に効いていることを示す。


「ふふふっ・・赤い化粧も似合うだろうな・・・」


 更に鉄柱攻撃をしていく狂子。


「アゥ!!アー!!キャアァ――ッ!!」

 ガン、ガン、ガン!


 何度も鉄柱に額を叩き付けられ、一撃ごとに鉄柱に雫の頭部から流れた血がべっとりと付く。


「さぁ、あたしの化粧の腕のほどをお客さんに見てもらおうか・・・」


 とどめとばかりに鉄柱に雫を叩きつけて、雫の顔を覆っていた布を剥ぎ取る狂子。雫はたまらず鉄柱の真下に倒れこんだ。そのまま痛烈に痛めつけられた額を抑えてうずくまる。
 しかし、残忍にも狂子は雫に鎖を首に巻いて引きずり起こす。


「く・・・・っ、苦し・・・」


 両手で鎖を外そうとしながら悶える雫の顔は、すでに流血で真っ赤に染まっている。美女レスラーとして有名な雫が血祭りに挙げられるのを見て、場内の観客は思わず悲鳴を上げた。
 雫の首に鎖を巻きつけたまま引きずるようにしてリングに戻ったブラスターは、リングブーツに凶器として仕込んでいたアイスピックを躊躇なく雫の額につきたてた。


「ヒアアアァ―――ッ!!アアァ―――ッ!!」


 首を鎖で絡められたまま、さらに何度も額に鋭利な凶器を突き立てられ、悲痛な悲鳴を上げる雫の姿は、試合開始から数分しかたっていないのに、すでに鮮血で深紅に染め上げられている。
 ひとしきり、雫の額をえぐり続けて、やっと雫を解放するブラスター。試合開始早々から激しい流血にあい、意識を混濁させている雫の両足を抱え込み、さそり固めにとった。


「ぎゃあああ~~~~っ!!あああああ~~~~~っ!!」


 一気につま先が頭につくのではないかと思わせるほどに体を折り曲げられた雫は、ものすごい悲鳴を上げる。


「雫、ギブ!?」


 あまりの悲鳴に慌ててレフリーが雫に駆け寄る。


「ああっ!!助けて!!助けてえぇ~~~!!ノオオオ~~!!」


 あまりの激痛に当りかまわず助けを求める雫だが、それでも本能的にギブアップを拒絶する。しかし、すぐに肢体を痙攣させ始めた雫が完全失神する前にブラスターは技を解いた。とはいえ、体が折られると思うほどに腰にダメージを受けた雫は、腰に手を当てたまま動くことが出来ない。
 ブラスターは激しい流血で意識が混濁している雫を抱え上げ、コーナーポスト最上段に座らせた。その合間に、ブラスターのセコンドが、折りたたみ机をリングにいれ組み立てる。
 ブラスターが投げ技を放てば、雫は頭頂からその机に激突することは間違いない。その光景を想像した観客の何割かは、残酷な光景から目を離そうとしたが、ブラスターも観客も、雫の執念を甘くみていたことになる。
 コーナーポストに立ち上がろうとしたブラスターを、そのダメージからは想像も出来ないほどの機敏な動きでブラスターの頭を飛び越えた雫は、そのまま回転エビ固めに切って落とした。
 雫自身はブラスターと比較して、大人と子供ほども体重差があったが、その体重が合計されて後頭部に加わったブラスターはたまったものではなく、後頭部を抑えたまま、コーナーの下でのたうっている。
 観客席は、この大逆転劇に興奮の渦である。雫の体はすでに限界がちだづいていたが、観客の声援に後押しされるようにして雫は軽快な動作でコーナーに駆け上がり、ムーンサルトフットスタンプを見事に決めた。


「ぐごぉっ!!」


 たくましい筋肉に覆われたブラスターの腹筋も、意識を集中させていない今では鎧としての意味を持たず、確実にダメージが加わっている。
 一発、二発、三発・・・、ブラスターの腹筋に狙いを定めた雫は、全体重を乗せたフットスタンプをブラスターに浴びせたが、ブラスターがコーナーポストの下に転がり込んだとき、雫の反撃時に倒されたままの机をブラスターの後ろに置き、自身はコーナーに上ってブラスターが立ち上がるのを待っている。


(ぐう、これだけの反撃を食うとはね・・・・・。甘く見すぎたか・・・、いや!!舐め足りないんだよ!!今度こそはあの澄ましたお綺麗な面歪めさせて命乞いの1つもさせてやる!!)


 身勝手な、しかし当人にとっては正当な復讐心を胸に燃やし、だが、やはりダメージはあるのだろう、ふらふらと頭を抱えて立ち上がったブラスターを待っていたのは、宙に舞う雫の腕であった。
 コーナーポストからの回転式DDTだ。ブラスターの頭が、雫の体重と、ブラスターの首を支点とした遠心力を加えられて折りたたみ机に激突する。
 リングの妖精と呼ばれるにふさわしい身のこなしと、見掛けに似合わない破壊力の、まさに改心の一撃である。


「イクゾ――――ッ!!」


 先ほどの一撃により、大流血となり、意識の混濁したブラスターを立たせ、未だ流血の止まらない体に鞭打って、観客にアピールを入れた。
 観客席がワッと沸く。それは、雫が勝負を決めるときのアピールであったからだ。長い長い屈辱のときを経て、ついに正規軍がヒールに一矢を報いる瞬間がやってきたことに対する興奮である。
 雫は、コーナーポストに駆け上がると、後ろを向いたまま、ムーンサルトを入れた。そして、両膝がブラスターの首の付け根に当った瞬間、身を捻り、膝でブラスターの首を固定したまま、ブラスターの体を半回転させた。
 ブラスターの体が弧を描いて頭頂からマットに沈み、跳ね返ってリング下に落ちた。
 誰が見てもわかる、ブラスターのTKO負けである。しかし、雫も、受身を取りそこない、危険な角度でマットに叩きつけられた。両者ともそのままピクリとも動けず、場内にざわめきが起こる。


「雫もブラスターも動けないってことは・・・これって引き分けってことになるのか?」

「そうなるんじゃ・・・ああっ!!見ろよ!!雫が!!」


 場内に予想以上の粘りを見せた雫への賞賛の空気が混じり始め、両者ノックダウンの展開になるかと思われた瞬間、雫の腕がぴくりと持ち上げられた。
 しかし、レフェリーのカウントはすすみ、10カウント以内に立ち上がらなければ両者ノックアウトは決まってしまう。


「フォー、ファイブ・・・・・・」


 意識を失い、ピクリとも動かないブラスター。かろうじて、ロープにすがりつきながら起きあがろうともがく雫。
 正規軍は全員必死に狂獣連合を押さえつけ、誰一人乱入できないようにする。


「セブン、エイト・・・・・・」


 誰もが必死にもがいている間にもレフェリーのカウントが進む。


「ああ~~っと!!ここまでか!!ここまでなのか、雫!!ここまで来て、健闘したで終わってしまうのか~~~!!!!」


 リングアナの興奮した叫びが場内に響く中、ブラスターもようやく意識を取り戻し、立ち上がろうとするが、もうカウント以内に立ち上がることはできないだろう。雫もロープにしがみついてなんとか立っている状態だ。


「ナイン・・・、テ・・・!!」


 ここで一気に会場が沸き上がった。カウント10が入る間際に雫がロープから離れ、ファイティングポーズをとったのだ。


 カンカンカンカンカ~~~ン!!!!


 ゴングがうち鳴らされ、興奮したアナウンスが試合終了を告げた。レフェリーは足下の定まらない雫の腕を高く上げ、勝者を称える。


「やりました!!ついにやりました、月嶋雫!!ついに、ついに!!難攻不落と思われていたブラスターの牙城を陥落させたぁ~~!!!!」


 興奮したアナウンスの声がかき消されるほど会場中から歓声がとどろく。その中で、敗北したブラスターは視線だけで人を殺せそうなほど凶悪な顔つきで雫を睨み、何も言わずに去っていった。
 リングに一人残った雫を、正規軍の面々が取り囲み、感激の涙を流す。
 決してベルトを賭けたタイトルマッチではないが、今この場で歴史が変わったことを誰もが感じていた。


「・・・みなさん、応援ありがとうございます・・・・・・!!」


 雫が、かすれた声で、しかしはっきりとマイクを持って告げた。その言葉に会場中から声援がわき起こる。


「・・・ありがとうございます。私が今日勝ったことで、この団体の方向は変わるでしょう・・・。ヒール軍は私を標的とし・・・、正規軍のみんなも私を後から追ってくる・・・」


 静かに、ゆっくりと語る雫に、熱狂していた観客も静まりかえる。自らの血で身体中を朱に染め、艶やかな髪はごわごわに硬くなっている。しかし、誰もが雫の凛とした立ち姿に息をのんでいた。


「ですが、私は宣言します。今、この団体の先頭を走っているのは私だと!!これまではヒール軍にやりたい放題やられてきたけれどもこれからはそうはさせない!!」


 息をのむ観客たちに、雫は一息ついて深々とお辞儀をした。


「・・・みなさん、今日は本当に応援ありがとうございました。みなさんの応援が背中を押してくれたから私は・・・、今日、ようやく勝つことができました・・・・・・。本当にありがとうございました・・・・・・」


 そういって、限界を超えたのだろう。そのままふらりと前のめりに倒れた雫を、正規軍の面々が抱えながら控え室に運び、観客は精一杯に戦い抜いた美女レスラーに賞賛の拍手を惜しまなかった。



 万雷の拍手の中、付き人に背負われながら退場していく雫雫。彼女は正規軍のトップとして、団体の象徴として、大きな飛躍を遂げた。そのことを、すべての人が次の試合で悟ることとなるだろう。

リングの妖精1

「ああああぁぁ~~~~~~っ!!!」


 悲痛なまでの絶叫が会場内に響き渡る。
 リング上では、相撲取りかと見間違えんばかりの怪異な女が水色のコスチュームを身につけた華奢な女性の足をアキレス腱固めで締め上げていた。


「が、がんばれ雫ーっ!!」


 場内から悲鳴のような声援が上がるが、雫と呼ばれた女性は締め上げている太い腕を弱々しく蹴るばかりで抜け出せそうに無い。


「月嶋、ギブ?」


 レフリーが雫に問い掛ける。


「・・・・ノ、ノぉぉ~~~・・・」


 弱々しい視線をレフリーに向けて、それでもレスラーとしての本能からか、ギブアップを拒む雫。
 しかし、レフリーに焦点はあっておらず、レフリーは試合を止めるかどうかを迷ったところで、まるで飽きたというように怪女が雫の脚を離し、立ち上がった。


「ね~~~ぇ、雫ちゃ~~ん。こないだの大口はどこ行ったのかなあ~~?そんなところで寝転がっ
てないでそろそろ本気出してよ~~~ぉ」

 雫の弱々しく倒れ伏している姿を嘲りながら怪女は余裕たっぷりに立っている。



 ここは、とある場所の体育館。
 プロレス団体に似合わない美貌の女子選手や反則攻撃を得意とするヒールレスラーを中心に構成されたこの団体は熱狂的な支持を得ていた。
 ビューティー・プロレスリング・アソシエーション(通称BPWA)はその人気から、当然のごとく武道館のような大きな会場を押さえる事を押さえ、そのチケットの売れ行きは毎回立ち見客が出てくるほどのものであった。
 雫雫は、アイドル顔負けのその美貌と抜群のプロポーションで美人が多いBPWA所属の女子選手の中でもずば抜けた人気を誇っていた。19歳の若さにして人気・実力ともBPWA正規軍の中で自他ともに認めるトップであった。
 しかし、それは正規軍の中であって、ヒール軍団は、その性質から、ウェイト、パワー、スタミナ、そのどれもが正規軍女子を大きく上回っていた。
 雫も例外ではなく、新米ヒールならばともかく、ヒール軍団の上層部には、連戦連敗という無残なありさまだった。
 そして、今雫と闘っているのは、ヒール軍団、狂獣連合のトップ、ブラスター狂子だ。その容赦ないファイトスタイルと、女子の範疇を超えたパワーと体格によって、女子プロレス界最強の名をほしいままにしている。しかも、対戦相手は誰もが入院を免れず、リング外においてもやりたい放題というありさまだった。
 そんな狂子の独裁体制に弱々しくだが歯向かってきたのが雫率いる正規軍である。もともとまじめで正義感の強い性格であるため、事あるごとにヒール軍団と衝突してきた。何度も入院することになったが、不屈の闘志を見せて今なおヒール軍団と闘い続けている。
 そんな雫に、ヒール軍団の牙城を切り崩してほしいというのは、団体、ファン、共に共通の願いである。



 しかし、その願いも虚しく、雫は汗まみれになって、虚ろなまなざしを天井に向けたまま大の字になって倒れている。
 いや、弱々しくだが、身を起こそうともがいている。


「雫、やれるか?」


 レフリーが立ち上がるのもつらい状態の雫の身を案じて尋ねる。


「・・・はい、・・・・やれます・・・・」


 その返答の遅さに懸念を抱かないではなかったが、雫の頑固さは良く知っているレフリーは、ファイティングポーズを取れるか確かめようとする。


(立たなきゃあ・・・・、今度こそ負けられない・・・・!!)

「くう・・・あああぁぁ~~~~~っ!!」


 絶叫して立ち上がる雫。
 しかしその闘志も虚しく、立ち上がった雫の目の前に迫ってきたのは狂子の手の甲だった。


 ゴッ!!


 鈍い音がして、雫の首が捩じれる。


「あぁ・・・・・」


 完全に意識が飛んだのか、糸の切れた人形のように後ろに倒れこもうとしながら、それでもロープに持たれ込んで倒れるのを拒否しようとする雫だったが、とどめに狂子の必殺技である大振りのラリアット、ブラスティング・アックスが雫の細首に叩き込まれ、場外に吹き飛ばされた。
 場外に落ちた雫をレフリーが見たが、雫は無残にも白目を向いて失神している。
 慌ててゴングを要請するレフリー。

 カンカンカンカーーーン!!!

 ゴングが鳴り響き、試合の終わりを告げる。

『28分36秒、雫雫の場外失神よりブラスター狂子のTKO勝ちとなります』

 注目の一戦は、雫の無残な場外失神TKOで幕を閉じたのだった。



 勝ち名乗りを上げながら、場外の雫を覗き込む狂子。そこではちょうど、雫が目を開けるところだった。


「くう・・・・っ、ま、まだぁ・・・・っ」


 場外でKO負けをしたことを当然覚えているはずも無く、今までに受けたダメージで頭に霞みがかかったような状態で、それでもレスラーとしての本能からか、リングに戻ろうとする。
 しかし、狂子は、無慈悲にも突進してくる雫を抱え挙げ、リフトアップした。
 勢いのまま狂子にかかっていった雫だが、次第に頭の中の霞みが晴れてくるにしたがって、自分が負けたことを自覚する。


「は、放せっ!!このおぉっ!!」


 内心では恥も外聞も無く泣き叫びたかったが、それでもプロレスラーとしての誇りがそれを許さなかった。
 狂子によって、2メートル以上の高さまで持ち上げられた雫は、うつ伏せのままリングに落とされた。お腹を抱えて悶絶する雫に、狂子が嘲笑を浴びせる。


「これで分かったろ、身の程ってのがね。綺麗な玩具は玩具らしくしていればそれなりに大事に扱ってやるからね。アーッハハハハハ!!」


 屈辱に身を震わせ、狂子に食って掛かる雫。


「まだだっ!!まだギブアップは言ってない!!もう一度、・・・もう一度私と闘えぇ~~ッ!!」


 再戦を叫ぶ雫に、押しつぶすような視線を向ける狂子。取り巻きは、何を馬鹿なことをと言っているが、狂子は少しばかりの思考の後、それを受けた。


「いいぜ、やっても」

「それじゃあ・・・っ!!

「ただし、条件がある。それが飲めないんだったらやめるよ」

「何、その条件は?」


 正規軍の後輩は、雫を引き止めようとするが、もう止まることは出来なかった。それが地獄に続くとしても。


「たいしたことじゃないさ、ただ次の試合形式をあたしに任せるってだけでね。飲むかい?」

「飲むわ!!」


 躊躇無く答える雫。


「おおっし!!じゃあ次の対戦は1ヵ月後だ!!思い残すことのないようにしておけよ!!」


 唇をかんで狂子を睨み付ける雫。1ヵ月後に何が起こるか、たとえ何があっても一矢報いなければならないと、心に誓い、リングを後にした。

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ゆーまちゃん

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